最初にお伝えしておきますが、私はヒグマが好きです。
北海道に住んでいてヒグマは北海道のシンボルと言える動物ですし、サホロのベアマウンテンやクマ牧場などで見るクマは愛嬌があって可愛らしいです。
また熊は非常に母性が強い生き物で、子供に対する愛情は人間にも負けません。
北海道の生態系の頂点とも言える存在だけあって、その姿は生命力にあふれていて勇壮で美しいとも思えます。
それを踏まえたうえで読んでいただけるとありがたいです。
目次
帯広市の駅近くの市街地にヒグマが出没
先日、北海道帯広市の中心部近くの市街地に出没した熊が駆除された、とニュースでやっていました。
場所を聞いてビックリしたのですが、帯広駅から約1.2キロぐらいの距離にある小学校の校庭ということでした!
帯広市に住んでいたり行ったことがある人ならわかると思いますが、結構大きな街なんですよね。
今年の8月に札幌の住宅街を数日続けて出没した熊の場合、南区という土地が山のすぐ近くというのこともあり、距離的にわからないでもないです。
しかし、今回の帯広の場合は山から数十キロも離れた、本当に中心部まで来たということでかなり珍しいケースだと思います。
ここまで来る間に、人との接触がなかったのが奇跡的じゃないかと思うぐらいに、住宅街を歩いてきていますよね。
時間帯が夜中から朝方にかけてで良かったです。
こんな街近くの住宅街ですから、住民に被害が出なくて本当に良かったです。
市街地に出没した熊は本当に駆除しなければならないのか?

私は冠攣縮性狭心症になる前は釣りが趣味で、北海道内のいろいろな川に行っており、十勝の川もいくつも釣りに行ったことがあります。
幸い鉢合わせることはなかったですが、川沿いを歩いていて遠目に熊を見たこともありました。
釣りをしている人ならある程度熊の習性や生態などを調べて、極力熊との接触を避けるようにしています。
まして釣りをしている人は熊のテリトリーにお邪魔させてもらうわけですから、無駄に接触して熊を駆除の危険にさらすようなことは絶対に避けなければなりません。
ですが、人間が住んでいる場所に出没した熊は、やはり駆除しなければならないと思っています。
今年の8月に札幌南区に連日出没した熊を駆除したことに対して、約300件の苦情が入ったそうです。
そのほとんどが道外から
ということで、要するに関係ない人たちが苦情を入れているという現実があるんですね。
クマが歩いているだけで、人になにも危害を加えないということが100%なら、何も駆除することはないと思います。
あえて最初に衝撃的な記事を載せますが、これはロシアで起こった獣害事件で、実際にあった話です。
【衝撃】ロシアで熊に食べられる女性が実況した内容「助けてママ!熊が私を食べようとしているの」
北海道でもヒグマに人が襲われたという事件はたくさんありますし、中には人間を食べる熊も存在します。
今回の帯広の件でツイッターを見てみてると、地元民は迅速に駆除したことに対して感謝しており、おそらく地元民ではないであろう人たちからは「麻酔銃で眠らせて森に返してやれ」「動物愛護団体に相談しろ」「動物園で保護したらいい」、などという意見がありました。
熊に麻酔銃を使って眠らせるというのは難しい
麻酔銃を撃てる人ってものすごく少ない、ということはご存知でしょうか?
まず麻酔銃を扱うには猟銃等所持許可と麻酔を扱える資格を持っている人でなくてはなりません。
そして、動物に対して使うわけですから一般的には獣医師ということになりますが、獣医師で猟銃を撃てる人がどれだけいるのか・・・ということになります。
普通に獣医師さんというのはペットを相手に治療しているか、家畜などがほとんどですからね。
ただ、今回の帯広のケースでは麻酔銃も用意して検討されたそうです。
現場には麻酔銃一丁が用意されたが、「ガス銃のため威力が弱く、針の長さも3、4センチと短く、皮膚に届くのか不安な面があった。強力な麻酔薬でも命中してからクマが眠るまで、最短10~15分はかかる。クマが木から落ちて走り回る危険性もあった」。
十勝毎日新聞電子版より引用
麻酔銃を撃ったからといってすぐに効くわけではなく、中には数十分かかる場合もあるそうです。
興奮した熊は非常に危険で、麻酔銃を撃たれて興奮した熊が暴れ回わる可能性があり、回りにいる人は大変な危険に晒されてしまいます。
しかも今回は住宅街の中の小学校ということで、麻酔銃を使うのを取り止めたのも仕方なかったのだろうと思います。
住宅街ではニホンザルにしか使えず
住宅街での使用は現実的ではないのはこのためで、環境省のガイドラインも「効くまで時間がかかり、周辺住民に危害を及ぼす可能性が高まる」として原則、住宅街ではニホンザルにしか使用を認めていない。北海道新聞より引用
また熊は非常に頭のいい動物なので、もし麻酔銃を使って山に返したとしても、人間がいる場所は怖くないところだということを覚えてしまうと、また人里に下りてくることがあります。
熊は食べ物に対する執着心が非常に高いので、たとえば駆除されるまでの道程で何かエサになるようなものがあって食べていた場合、再びその場所に来る可能性が高いです。
熊は人を襲う可能性もあるし素手の人間では太刀打ちできない
こちらは熊の獣害事件としては日本最大の犠牲者を出した「三毛別羆事件」を小説にしたものです。
三毛別羆事件 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ウィキペディアを見るだけでも充分怖いです・・・。
北海道には他にも熊による獣害事件はたくさんあり、福岡大学ワンダーフォーゲル部ヒグマ事件は、大学生3名が犠牲になりました。
福岡大ワンゲル部・羆襲撃事件
ウィキペディアよりこちらの記事が詳しく書いてあり、非常にわかりやすいと思います。
あげればキリがないですが、ここ数年でも北海道では人間が熊に襲われることはありました。
クマ類による人身被害について [速報値]
こちらは熊による被害をまとめたものなりますが、北海道以外でもかなりの件数で熊による被害が起きています。
平成28年の秋田県の被害は「スーパーK」と言われた熊によるもので、当時頻繁にニュースでやっていたので記憶にも新しいと思います。
もしヒグマが振り落とした手に人間が当たったら、おそらく顔が吹っ飛ぶぐらいの威力があります。
実際に調べたらそんな話も出てきます。
熊は何もしていないのに射殺なんて可哀想と言いますが、実際にすぐ近くに住んでいる人間にとってはヒグマがすぐそばにいるなんて、本当に恐怖以外の何者でもありません。
札幌の場合は何日間も立て続けに住宅街に出没していたので、住民は連日の恐怖で疲弊していただろうと思います。
ヒグマは人を人間を襲わないかもしれないけれど襲う可能性もあり、襲われた場合は人間は死んでしまうこともあるのです。
人間が自然を壊すからエサが少なくて降りてくる?
十勝総合振興局環境生活課によると、日高山脈でクマの主食となるドングリなどの生育状況は「おおむね平作」。
食料は比較的潤沢とみられ、帯広市郊外で9~11月のクマの目撃情報はなかった。ヒグマに詳しい酪農学園大学(江別市)の佐藤喜和教授は「写真を見る限り痩せてはいない。餌を求めて市街地に来たわけではなさそう」とみる。十勝毎日新聞電子版より引用
ヒグマの生態に詳しい、おびひろ動物園の柚原和敏園長は、
今の時期はまだクマが冬眠に備えてたくさん脂肪を蓄える時期でおそらく川沿いに降りてきたと思われるが、市街地まできた原因を推測するのは難しい。山間部には多くのクマが生息しているが、こんな街なかに出たのはちょっと記憶にない。ただ、夏に札幌で駆除されたクマのように市街地に居ついたわけではなく、木に登っていたのは人を恐れるクマとしては正常な反応だ。NHK NEWS WEBより引用
今回の帯広のヒグマの出没は専門家から見ても、過去にあまり例がないイレギュラーなケースだったようです。
北海道のヒグマの目撃情報でも、ここまで駅近くの市街地まで来た例はそうそう聞くことはありません。
小学校の校庭に入った時間も、平日であれば子供の登校とかぶる時間帯なので、日曜日で本当に良かったと思います。
「自然を破壊した人間が悪いのだからヒグマを殺すな」と、とにかく人間が悪い人間が悪いと言う人もいますが、言っている方も人間ですからお互い様なわけで、ヒグマが出る地域に住んでいる人間だけに一方的な我慢を強いるのはおかしな話です。
実際に今現在人間が住んでいる土地は、いつの時代であれどこかで私たちの先祖が開拓した土地ですし、少なからず生態系に影響は与えてきたはずです。
住宅街しかり、道路しかり、ダムしかり、トンネルしかり、レジャー施設しかり、日本で生活している人間なら、皆なにかしら自然を破壊したことによって得られた恩恵にあずかって生きているはずです。
また、人間も動物も同じ命ならと言うなら、人も動物も虫も同じ命のはずで、それこそゴキブリや布団のダニ一匹すら殺せませんよね。
極端な話かもしれませんが、あなたやあなたの子供の目の前にマラリアの病原菌を持っている蚊がいたとします。
あなたやあなたの子供を刺さないかもしれないし、刺すかもしれません。
刺されると命の危険もあり得ます。
この場合に、蚊はただ飛んでいるだけで何も悪くないし刺さないかもしれない、蚊の命も大切だから殺さないで、と言う人はどれだけいるでしょうか?
命は平等に大切だけど、自分にとって危ない害虫は殺すし家畜を殺した食肉は美味しく食べます、でもクマは殺すなというなら矛盾しているのではないでしょうか。
「そんなこと言っても、蚊とヒグマならヒグマの命の方が大事だろ!」と言うなら、ヒグマが出没した地域に住んでいる人は「そんなこと言ってもヒグマの命より、自分の子供・自分の命の方が大事だよ!」と言うでしょう。
北海道庁は26日、12年ぶりのヒグマの生息数調査の結果を道議会で公表した。推定生息数は2244~6476頭と前回調査の約2倍になった。近年、目撃数や捕獲数が増加傾向にあり、今後の保護管理政策などに影響を与えそうだ。
2013年6月26日付 日本経済新聞より引用
ヒグマの数も2013年の調査では前回の調査の約2倍となっており、個体数が増えすぎたのが市街地までヒグマが出てくる原因になっている可能性もあり、現在ではさらに増加しているのでは、と言われています。
人間が自然を壊してヒグマの居場所やエサがなくなっているなら、エサが食べられずに餓死してクマの個体数は減るはずですよね。
そもそも自然ですからエサになる植物の豊作・不作は必ずあるわけで、それが人里に出没する原因の1つになることはあると思いますが、全て人間が悪いという結果にはならないでしょう。
ヒグマとの遭遇で一番怖いのはヒグマと人間がお互いの存在に気づかずに鉢合わせしてしまった場合

釣りや山菜取りで山に入るときは、熊よけの鈴を鳴らしたりラジオを持って行ったりする人が多いです。
それは熊に人間の存在を知らせるためです。
熊は本来は臆病な動物なので、人間がいるとわかると熊のほうから避けてくれることが多いです。
逆に以前の私がそうでしたが、遠目に熊を見つけて人間の方から避けることもあるでしょう。
ただ、鈴などを持って行かずに熊のテリトリーに入ってしまった場合、熊も人間もお互いの存在を知らずに、バッタリ鉢合わせしてしまうことがあり、これが一番危ないパターンです。
そこで人間が大声を出してしまったりすると、臆病な熊がビックリしてしまい、反射的に襲ってくる可能性が高くなります。
また全速力で逃げたくなる気持ちはもちろんわかるのですが、熊は背中を向けて逃げるものを追う習性があるので、追われて襲われる可能性もあります。
住宅街で熊を見失ってしまうと建物などで死角が多いため、熊とバッタリ鉢合わせしてしまって大声を出したり背中を向けて逃げてしまうと、パニックになった熊に襲われたり、逃げている最中に追われて襲われてしまうかもしれません。
クマがいない地域に住んでいる人は、ヒグマが市街地に出てきて、すぐ近くにいる恐怖が身近なものには感じられないかもしれませんが、私たちの感覚からすると、ワンパンで人間の頭を吹っ飛ばせるような生き物が近くにいて、しかもそれが時速60kmで走れるというのは、とてつもない恐怖なのです。
クマ牧場や動物園で保護すればいいという意見もあるが・・・
野生で育った個体 群れにはなじめず
「野生で育ったヒグマを飼いならされたヒグマの群れの中に入れたら一斉に襲われ、最悪の場合殺されてしまう」。国内最多のヒグマ75頭を飼う「のぼりべつクマ牧場」(登別)で1988年から飼育に携わる最ベテランの坂元秀行飼育係長(54)はこう指摘する。ヒグマは本来群れず、成獣となれば森の中では単独で暮らす。「群れで飼うには1歳未満の小さい時から慣らす必要がある」(坂元さん)。そうすることで閉ざされた牧場内の暮らしやクマ同士の臭いにも慣れ、集団生活が可能になる。それでも最後までなじめず、いじめられたりして一生個室暮らしとなる個体がいるほか、20年ほど前には夜間に集団から襲われ、骨まで食べられた個体もいたという。「群れになじみにくい野生のクマなら間違いなく襲われる」
保護したい思いとは裏腹の現実
このため同牧場で飼育する個体はほぼ全てが牧場生まれ。今年5月に日高管内新ひだか町で保護された生後3~4カ月の子グマを引き取ったが、まれな例だ。野生のクマを個室で飼う選択肢もなくはないが、「ストレスで体調を崩してしまうでしょう。非常に繊細な生き物なんです。施設に収容することが彼らの幸せになるのでしょうか」と坂元さん。保護したいという市民の思いとは裏腹に、そう容易ではない現実が立ちはだかっている。
北海道新聞より引用
少々長い文を引用させていただきました。
「動物園でクマを引き取ればいい」「北海道ならクマ牧場があるんだからそこに連れていけ」という意見も多いですが、この内容を読むとそれも難しいというのがわかっていただけると思います。
私も駆除対象になったヒグマを引き取って保護できるなら、それにこしたことはないと思います。
ですが私たちが考える以上に野生のクマというのは繊細ですし、もともと子育て中以外は単独で行動する動物なので、集団生活も難しいのですね。
また動物園で保護したとしても、檻を新設して飼育員がついて、毎日のエサ代がかかってと、タダで飼育できるわけではありません。
熊の生態や費用対策などを考えずに、一方的に「動物園で飼えばいい」と言うなら、「じゃあそのお金をお前が出してやれ」、と言い返されてしまうのがオチです。
観光客やカメラマンによってヒグマが人慣れしてしまう知床
知床が世界遺産になってから、非常に多くの観光客やカメラマンが訪れるようになりました。
知床は北海道の中でもヒグマの生息密度が非常に高い地域です。
普通に道路を走っていて、ヒグマを目撃したことがある人も結構いるのではないでしょうか。
そんな知床で地元の人が悩んでいるのが、カメラマンや観光客によるヒグマへの異常接近です。
何度も人が接近することによって熊が人間に慣れてしまい、人を恐れないヒグマが出てきてしまいました。
そういったヒグマが人間に危害を加えた場合駆除の対象になってしまいます。
また、観光客のエサやりやゴミのポイ捨てによって人間の食べ物の味を覚えてしまい、それを求めて人里に下りてきてしまうヒグマも駆除の対象になってしまいます。
知床財団の方たちはこういったことを減らすため、人間とヒグマが接触しないよう活動をされています。
ヒグマと人間が接触した場合は、人間ならヒグマに殺されてしまう可能性がありますし、人里に下りたり人間に危害を与えたヒグマは駆除対象となってしまうので、お互いの不幸にしかならないのです。
私たちが「ヒグマにいて欲しくない」と考える場所、たとえば道路沿いや遊歩道の中、住宅裏の斜面などにヒグマが現われた場合は、原則として(個体識別用画像の撮影後に)追い払いを実施し、ヒグマにその場所から移動してもらっています。
これは短期的には、ヒグマ見物車両の渋滞による交通事故の発生防止や、過度の接近による突発的な人身事故の防止など、人間側の安全確保が目的です。
中長期的には、人間との無害な接触(人間がすぐ近くにいてもただ見るだけ、写真を撮るだけで、ヒグマがまったく怖い思いをしないような状況)をヒグマが繰り返し経験することで、ヒグマが「人間から逃げる必要はない」と学習し、「人馴れ 」が進むのを防ぐことが目的です。
知床財団HPより引用
人慣れしてしまい、最終的には人里に下りるのが当たり前になってしまったヒグマを駆除したときも、かなりの数の苦情が寄せられたようです。
ですが、その原因を作ったのは無責任に可愛いとエサをあげた観光客だったり、至近距離で写真を撮ったカメラマンだったりで、決して地元の人間ではありません。
なのに地元以外の人間が現場の人間の対応に文句を言うのはお門違いと言わざるをえません。
知床財団のHPを見ていただければわかると思いますが、ヒグマが駆除されないように、知床というヒグマの密集地域で問題が起きないよう、人と熊が共生できるように大変な努力をされています。
ぜひ見ていただいて、北海道を訪れる際の参考にしてもらえたら嬉しいです。
またこちらの記事もぜひ読んでいただきたいです。
森の動物にエサを与えないで 1本のソーセージが招いたヒグマの最期
まとめ
実際私も捨てられた猫を引き取って飼っていて、動物は大好きですし大切な命だと思っています。
ですが市街地に出てきたヒグマを駆除したことに対しての苦情が、事情を知らずに一方的だったり的外れなことだったりすることには非常に違和感を感じています。
札幌市の場合は業務に支障が出るくらい苦情が来たということで、本当にいい迷惑だったろうと思いました。
ヒグマ憎しで駆除をしているわけではなく、その場所に住んでいる人間や現地で対応している人にしかわからない事情もあるので、関係ない人が一方的に非難するのはただの迷惑にしかなりません。
もし意見を言うとするなら、ヒグマの生態や現地の事情などを色々と考えて建設的な意見を言うべきですし、無責任に苦情だけ言うならそれこそ言った人が保護活動などをすれば良いのではないでしょうか。
そうでなければツイッターなどで良くみかけるように、「現地の人間の命はどうでもいいのか」、「じゃあお前が飼えばいいだろ」などと言われても仕方がないのです。